生まれてからそろそろ半世紀。
ひと所に落ち着かずに
国境どころか大陸をも超えて移動してきた。
去年他界した主人はユダヤ系で、
彼の多くの先祖がそうしてきた様に住む場所を転々とする運命なのかな、
とどこかいつも心許なさと寂しさを感じていた様だった。
若くして故郷を離れた私は、良くも悪くも心が柔軟な頃から外国暮らしを経験してきたせいか、どこで暮らそうと、言葉や文化は違っても人間は人間、生活は生活、と割り切っている節がある。
だからフランスに移住が決まった時も、歴史ある街並みやアートなど楽しみはあったものの、夢のような暮らしに期待を膨らませるような事はなかった。
こういうと、こうも期待値が低く、現実的で、冷めた心で、せっかくの外国暮らしなのに楽しめていないのでは、と思われるかもしれないけれど、実はこの感覚こそが大事なのではと思っている。
これまで数々のトラブルに対処してきたけれど、生活にはトラブルがつきものと思っているので、その都度面倒だなとは思っても、それでフランスやここに住む人を嫌いになったりはしません。逆に、そんな度々起こるトラブルの際に思いがけなく人の優しさに助けられたり、日々の暮らしの中で期待していなかった嬉しい事があったりすると、そっちの方が輝度を増し心に残ります。
そしてまた人が好きになり、フランスでの生活に一つ彩が加わる。
対象が誰であれ、何であれ、変に期待し過ぎると、期待を裏切られた時には落ち込んでしまうのは避けられません。
でも何事にも「なるようになるさ」と構えてさえいられれば、うまくいった時には嬉しい驚きと喜びと共に幸運感まで感じられます。
個人差があるとはいえ、生きるという事はそれなりに大変です。
でも、振り返った時に、ありがたい事の連続だったな、
と思える人生はきっととても美しい、と思いませんか。