コーヒー。
若い頃に好んで飲むことはなかった。
でも大学院に進むと連日夜遅くまで勉強をする事が多くなり
いつの間にかコーヒー無しでは一日がもたなくなった。
目的はカフェイン摂取だったので、味などは気にせずコンビニの安いコーヒーばかり飲んでいた。
働くようになって、家にコーヒーメーカーを買った。
コンビニの安いコーヒーに慣れていたので、家で淹れるコーヒーの薫りに、こんなにも違うものか、と感動した。ただ、安い方がカフェインが強かったようで、効き目が長続きせず日中も飲むようになった。美味しいコーヒーの味も少し分かるようになり、喫茶店などに行く楽しみも増えた。
ではフランスはどうか。
パリと言えばカフェ。パリ市内だけでコーヒーが飲める飲食店は3万8千軒もあるというのだから、至る所でコーヒーが提供されている。でも、ここでコーヒーを頼んで出てくるのはエスプレッソ。
場所によっては1杯500円以上もするというのに、それはそれは小さなコップに3口程度で飲み切れてしまう量しか入っていない。
しかし侮ることなかれ。味にも薫りにもパンチがあり、カフェインの含有量に至っては相当なようで、アメリカーノに慣れた体には効き目が強すぎた。
飲んだそばから、心臓ドキドキ、目はギンギン。
というわけで、フランスでもコーヒーは専ら家。エスプレッソも淹れられるコーヒーメーカーで、ダブルエスプレッソにお湯を少し多めで淹れる。それでもアメリカ―ノに比べれば格段の風味。
早朝、バタバタと子供たちを学校に送り出してから、
一足遅い朝食と一緒に飲む味わい深いコーヒーで一息ついて
気持ちを切り替えるのがルーティンになっていた。
なのに、ここ最近朝一杯のコーヒーの効果が夜更けまで続くようになり、疲れていても眠つきが悪くなってきた…。
理由は定かじゃないけれど、更年期と関係があると踏んでいる。
更年期はきっと両生類でいう変態期なのではないかと思う。
オタマジャクシのしっぽが消えて足が生えてくる、あれだ。
変態期はホルモンで調整されているというのだから、これまでのホルモンバランスが変化する更年期と同じではないか!
カエルになったら、住む場所も、食べる物もオタマジャクシの時とは全く変わる。
いくらオタマジャクシの時が楽しくったって、カエルになってしまったら、もうあの時には戻れない。
私もそろそろ、オタマジャクシの時に好きだった物や事をスッパリ忘れて
カエル期に適した習慣を身につけなければならないのかもしれない…。
ただ、脳は過去の記憶をしっかり残していて、そう簡単に切換を許してはくれない。
不眠の原因だと分かってはいても、脳がコーヒーを欲しているのだ。
デカフェを試したが、「これじゃないわ。違う」、と脳が言う。
で、今はアラビカのマイルドコーヒーを2倍に薄めて飲んでいる。
「物足りない。でも、何だか懐かしいわ」、と脳が言う。
そう。香りも味もオタマジャクシ期に慣れ親しんだあのアメリカ―ノに近いのだ。
カエルの生活を始めるのはもう少し先延ばしにできそうだ。