ロシア人には小さな笑い話が欠かせません。ソ連時代の厳しい生活、長く寒い冬、日々の暮らしに笑える種があまりなかったからか、語り継がれる笑い話というのがあるようです。
これさえあれば、笑って一日を終えられる。繰り返し聞いても、罪がなく、悪気もなく、ただ真実をついているから、色あせる事なく、おかしい。
今日は、そんな笑い話の一つをお裾分けします。
意味もなくため息が出てしまう日。ささやかな笑いと一緒に、ポッと明日への活力が生まれればいいな、という思いを込めて。
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チュクチ(*下記参照)のおじちゃん、初めてモスクワの街にやってきました。
都会暮らしの甥っ子がよんでくれたんです。ちっちゃい頃はよく一緒に遊んでやった甥っ子です。長旅のあと、モスクワの駅に降り立ったおじちゃん、お土産も多いし、甥っ子がタクシーで来るようにと、予めお金も送ってくれていたので、早速タクシー乗り場へ。
「すんません。あのー、この住所までお願いしたいがですが…」
タクシーの運転手さんは、おじちゃんの姿を見てすぐ『はぁ~ん、お上りさんだな。ちょっと遠回りして、今日はウォッカを買って早めに帰るとするか』と、ニコニコ親切顔でメモを手に取ると
「あー、ここはそう遠くないですよ。近道も知ってますし、そうですねー、20分もあれば着きますよ。」
「近道で20分ねぇ。甥っ子の話やと、10分そこそこっや言うとったけど…?」
「いえいえ。今の時間帯、普通の道は混むんですよ。早朝だったら普通の道で10分。でも、今だと30分はかかるね。だから近道するんですよ。距離的にはちょっと長くなるけど、渋滞にはひっかからないから…、10分節約ってわけです!どうですか?」
「そうけ。流石プロやね。んなら、お任せしますちゃ。」
おじちゃん、沢山のお土産を積み込み、自分も車に乗り込みました。
運ちゃん、ウォッカの事を考えながら、意気揚々と脇道へ入り、リンゴの並木道の下を通りかかると
「この並木道の向こうは森でね。時々鹿がでるんですよ~。」
などと軽口をたたきながらスピードを落とし時間稼ぎ。
「ほー、鹿け。鹿の肉ちゃ、うまいわいね。おわのとっておきの味付け教えてあげっちゃ…」
すると、並木道の陰から、突然杖をついておばあちゃんが車道へでてきました。
「あー、出た~!」と叫んで、運ちゃん、おばあちゃんにぶつからないようにハンドルを右に左にときりました。『あー、びっくりした』とホッと一息ついた時、
バン!
「えっ!?確かに避けたと思ったけど… ぶつかりましたか?」
顔面蒼白にして運転手がおじちゃんに聞きました。
「ふっ。ロシア人ちゃ狩り下手やね。おわがドアを開けなんだら、逃がしとったわ。」
「え˝~~~~っっ!!!!」
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注:チュクチのおじちゃんのセリフには、私のお国言葉である方言を使ってます。さぁて、どこの方言でしょう?