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息子とパリへーオコルカ、キセキ?(その1)

パリは車椅子利用者にとって便利な街とは言えません。

それは、歴史のある街では往々にして見られる事で、後世に伝えられるべき昔ながらの美しい景観や建築は、全ての人に便利で安全な新しい設備とはなかなか融合させ辛いのは理解できます。

パリに出かけると時々車椅子に乗った方が一人で移動されているのを見かけるので、そういう方にはきっと安全確実な移動方法があるのだと思います。

でも、必要に迫られた時だけ、ごく稀にパリに行く不慣れな私たちには、息子とのお出かけは常に何が起こるか分からないハラハラし通しのサバイバルアドベンチャーに他なりません。

 

今回のミッションが与えられたのは先月。

障害者用のバンを手配し、車椅子で乗降可能な駅へ移動、

そこから電車1本と地下鉄1本を使って予約の時間までに某地点に到達し、

帰りは同じ経路をたどって帰宅せよ。

 

ミッションを受けた時点で息子曰く「The third time is the charm(3度目の正直)って言うけど、まぁフランスだから3回目でうまくいったらキセキだよね。」

それを聞いた私は、「大丈夫。ちゃんと下調べして、時間に余裕を持って出かけたらきっと何とかなるよ!」と言い、

息子は私の脳天気さをちょっと羨ましそうに、でも明らかに期待していない冷めた調子で「ふーん。だったらいいけどね。」と返しました。

 

初挑戦でミッションの完遂を目指して、まずは下準備。

ネットで車椅子で乗降可能な近くの駅を検索。難なく発見。

その駅には駅員さんも常駐している。当日分からない事があれば聞けばいい。

その駅からパリまでは電車一本。問題ないだろう。

パリへ着いたら、車椅子でも全駅利用可能と謳われている最新の地下鉄の路線を使って目的地の最寄駅で下車。そこから徒歩10分弱で目的地に到着できる事も確認した。

いつも利用するバンを時間に余裕をもって予約して準備万端!

 

そして当日。

電車の出発40分前に駅に到着。

切符を買ってホームへ。車椅子の乗降場所にはちゃんと看板が出ている。

看板は二種類あり、一つは車両が多い長い電車用の乗降口。もう一つは短い電車用。

電光掲示板で電車の長さを複数回確認。「短い」→よし。

電車到着の数分前にホームに案内の放送がかかった。

「次に到着の電車は短い電車です。短いと書かれた乗降口でお待ち下さい。」

 

息子と確認の目配せをして、安心して指定の乗降場所で待っていました。その場所には目の不自由な女性も一緒。「ふふふ。」と心の中で勝利の笑みを漏らしたその30秒後、電車がホームに入ってきました。

 

そして、私たちの目の前を車椅子のマークがついた出入り口がサーっと風を起こして通り過ぎました。スピードを落とす気配もなく…。えっ?

 

「あーっ!行っちゃった!急いで!」

息子は電動車いす。急げば私が走るより早く進む事もできます。

 

目の不自由な方が、他のお客さんの助けを借りてホームと電車の隙間を軽々とまたいで乗ってしまわれるのを横目に、私たちは車椅子用の出入り口を見た先頭車両を目指して走りだしました。運転手さんが気付いてくれる事を願って大きく手を振りながら。

 

でも、どう見ても長かった電車…。先頭車両まではかなりの距離があり、猛ダッシュにも関わらず、停車時間内に到達する事は叶わず、私たちの目の前で無残にもドアは閉まりました。

 

数分前には自信の笑みを湛えていた頬は、予期せず出鼻をくじかれた悔しさに固まり、

「信じられない!掲示板も確認したよねっ!放送も聞いたよねっっ!どっちも短い電車ってゆったよねっっっ!マジでどうゆう事っっっっ!」とまくし立てる私に、息子が一言。

「ほらね。」

 

挑戦はつづく。