人間は文明の発展と共に、自分も自然の一部に過ぎないという事を忘れてしまった様だ。
忘れてしまった…、
いや意識には無いだけで、
自覚できないだけで、
本当のところは、脳も体も自然に戻りたがっている気がする。
特にここの所、自然の美しさ雄大さに心動かされる頻度が増えています。
つい数年前までは、やるべき事、解決すべき問題に埋もれてしまい、
あふれる情報に神経がとがり、
人間が次々に生み出すものに心奪われ、
人間同士の関係にとらわれ過ぎていたように思います。
でも、フランスへ移住して、
ついつい無駄にしてしまうほど
自由な時間が増えてからは、
本能が求める物がはっきりしてきたように感じます。
春、芽吹く草木を見て生命の逞しさを感じ、
咲く花を見て心が和み、鳥の囀りを聞いて気持ちが透き通ってくる。
初夏、日に日に濃くなる緑が眩しく汗ばむような陽気の中、
木陰のヒンヤリとした空気を深く呼吸すると、身も心も自然の一部だというのが実感できます。
何百年も、殆ど変わることなく鎮座する岩を見て、
樹齢何年かも分からない大きな木を見上げ、
数日で花を終わらせる草花を足元に愛で、
虫や鳥や小さな動物の命に思いを馳せると、
人間もただの生き物なんだなと思います。
他の生き物と違うのは、考える力、
新しい物を生み出す技術、
そして思い悩む心。
きっと弱いが上に、種を存続させるために必要となった特性なんでしょうね。
繁殖力はそれほど突出しておらず、独り立ちできるまでの時間は長く、力もそれほど強くなく、自分を守るための固い甲羅もなければ、戦うための鋭い牙も爪もありません。
だから、問題に直面した時や辛い体験をした時に、悩みながらも、考えて、そこを乗り越える術を見つけ出す特別な力が与えられたのかな、と思います。
その他の生物から見れば魔法のような力を使って、人類は今も増え続けています。今や世界人口70億以上。
でも、この時代、解決すべき問題がとにかく多くて、中には長年解決できずに放置され肥大化しすぎて手の付けられない物もあります。
自分の毎日の生活には大小の問題があり、自分を取り巻く人それぞれにも問題があり、みんなが暮らす社会にも問題があり、日本に、世界に、地球に問題がある…。
これじゃ、二進も三進も行きません。
閉塞感…。
そんな行き詰まりを感じた時、日ごろ親しんでいる風景から少し離れて知らない道を歩き、ちょっと緑の多い静かな場所に行ってみるといいと思います。だって、見慣れた風景には、思い出や思い入れがあり過ぎて、心を落ち着かせるには、余りに多くの雑念が生じますもんね。
初夏の眩しすぎる位の太陽の光を程よく遮ってくれる木立の下をゆっくり歩くと、
知らず知らず緊張して縮こまっていた身体から少しずつ力が抜けて、
自然と背筋が伸び俯きがちだった視線が上向き、
新しい風景にいつの間にか閉ざされていた気持ちが少し開き、
緑が作ってくれた新鮮な空気を胸に吸い込むと、
萎びていた心も少し膨らみます。
自然の中に身を置くだけで、人類が生まれてからずっと変わらず必要な太陽、水、空気、そして多くの命を育む豊かな土を身近に感じられ、きっと最も深い所の心の安らぎを取り戻せるのだと思います。
安心の泉が見つかれば、それが明日も生きていくパワーの源泉になります。